葬儀の場では、故人に対する思いがこもった香典をいただく場合があります。香典に対して、遺族が感謝の気持ちを形として示すのが「香典返し」です。香典返しは、単なるお礼ではなく、亡くなった方の節目を迎えたことを報告する意味も持っています。

当記事では、香典返しをいつ行えばよいのか、基本的な意味やマナー、宗教ごとの違い、返礼のタイミングが遅れた場合の対応などを丁寧に解説します。香典をいただいたときに適切に感謝を伝えるために、ぜひ参考にしてください。

香典返しとは、葬儀に際していただいたお香典に対して、忌明け法要が無事終わったことを報告し、感謝の気持ちを込めて贈る返礼品を指します。

香典とは本来、仏式の葬儀において故人の霊前に供える金品のことです。古くは米やお供物を持ち寄る習慣があり、時代の移り変わりとともに現金を包む文化へと変化しました。江戸時代には、香典を記録した香典帳によって相手に不幸があった際に参考にする慣習が見られ、のちに同額程度を返す文化が広まりました。

香典返しは「会葬御礼」と混同されることもありますが、会葬御礼は通夜や告別式に参列してくれたことへの御礼です。香典返しは通常、忌明け後にお礼状とともに配送または持参するのがマナーとされています。

香典返しは、葬儀でお世話になった方々に対し、感謝の気持ちを「かたち」で表す大切な慣習です。

香典返しを贈る時期は、「忌明け」後が基本となりますが、忌明けの時期は宗教や宗派によって異なります。宗派ごとの慣習をふまえて適切なタイミングで香典返しを行い、失礼のないようにしましょう。

ここでは、宗派ごとの香典返しの時期を解説します。

仏式の葬儀では、忌明けを意味する「四十九日法要」の後に香典返しを贈るのが一般的です。この四十九日法要は、故人が亡くなった日を1日目として数え、49日目に行われる法要であり、故人が成仏するとされる重要な節目です。香典返しはこの法要を無事に終えた感謝の気持ちを込めて、四十九日の法要が終わってから1か月以内を目安に送ります。

香典返しの手配には時間がかかる場合もあるため、四十九日を迎える前から準備を進めておきましょう。また、香典返しには挨拶状を添えるのが礼儀とされており、「無事に忌明けを迎えたこと」「葬儀でのお心遣いへの感謝」を丁寧に伝えることが求められます。

ただし、同じ仏教でも宗派によって考え方に違いがあります。たとえば浄土真宗では、「故人は亡くなってすぐに成仏する」と考えられているため忌明けの概念がなく、初七日法要を終えてから1か月以内に香典返しを届けるのが一般的です。他宗派と比較すると時期が早めになるので注意しましょう。

香典返しの時期は同じ仏教でも宗派によって差があるため、事前に確認しておくことが大切です。

神式では、「五十日祭（ごじゅうにちさい）」が忌明けに相当する節目とされており、この日を目安に香典返しを行うのが一般的です。五十日祭は、故人が亡くなってから50日目に営まれる追悼の儀式です。

神式では「香典」という表現は用いられず、「御玉串料」「御霊前」「御神前」といった表書きで金銭を供える習わしがあります。この御玉串料に対する返礼品が、仏式における香典返しにあたります。

葬儀（神式でいう神葬祭）のお返しは、五十日祭の後に贈ります。神式では、五十日祭に来てくださった方にお礼として渡す品もあるので、混合しないように気をつけましょう。

キリスト教の葬儀では、仏式や神式のような「香典」の慣習は本来存在しません。しかし、日本においては独自の文化として、「御花料」や「献花料」などの名目で金銭を供える風習があり、いただいた品へのお礼として「返礼品」を贈るのが一般的となっています。

カトリックの場合は、故人の命日から30日目に営まれる「追悼ミサ」の後に返礼品を贈ることが一般的です。プロテスタントでは、命日から約1か月後に「召天記念日」や「記念式」が行われるので、そのタイミングでお返しをするのが通例です。

返礼品の内容は仏式と同様に、お茶やお菓子などの「消え物」が選ばれる傾向があります。いただいた御花料の3分の1から半額程度を目安に品物を用意しましょう。

かつては、香典返しは四十九日法要を終えてから行うのが一般的でしたが、近年では葬儀当日に返礼品をお渡しする「当日返し（即日返し）」が広まっています。当日返しが広まっている理由としては、四十九日の法要に参列しない方が増えていることや、遺族側の負担軽減などが挙げられます。

葬儀の場で香典返しを一律に配布すると、香典帳の整理や後日の配送手配といった作業を省略できるため、遺族側の手間を大幅に削減できます。

「当日返し」は、かつては略式と見なされることもありましたが、現在では一般的な方法として定着しつつあります。特に遠方からの参列者が増え、四十九日法要に参加できないケースも増えてきたので、香典を当日返しにしたからといって失礼にはあたりません。

ただし、当日返しではすべての参列者に同じ品物を一律に渡すことになるため、高額な香典をいただいた場合には、後日あらためて追加のお返しを用意しましょう。

当日返しに贈る品物は、誰に渡しても失礼にあたらない無難なものにし、十分な数を用意しておく必要があります。また、「会葬御礼（供養品）」と混同されないようにするために、のし紙や挨拶状で香典返しである旨を明記しておくと安心です。

訃報を知るタイミングは人それぞれであり、四十九日法要が過ぎた後や、喪中はがきを通じて1年近く経ってから香典や御仏前が届くこともあります。たとえ時期が遅れていたとしても、香典を受け取ったら香典返しは必ず行いましょう。

遅れて届いた香典への返礼は、香典を受け取った日から遅くとも1週間～10日以内を目安に手配します。お返しの金額は、いただいた金額の3分の1～半額程度とされており、通常の香典返しと同様に、挨拶状を添えて品物を贈るのがマナーです。

また、香典をいただいた際には、まず電話や手紙で感謝の気持ちを伝えると、より丁寧な印象を与えることができます。相手の思いやりに対して、心を込めた対応を心がけましょう。

香典返しは四十九日法要を終えた後、1か月以内に贈るのが本来のマナーとされていますが、葬儀後は遺族にとって多忙な日々が続き、体調不良や各種手続き、精神的な事情などにより手配が遅れてしまうことも少なくありません。

返礼が遅れた場合は、手配が可能になった時点でできるだけ早く品物を用意し、速やかに相手に贈るようにしましょう。

その際は、挨拶状や一言メッセージにて「ご心配をおかけしました」「お返しが遅くなり申し訳ありません」といったお詫びの言葉を添えましょう。香典返しの本来の目的は感謝の気持ちを伝えることにあるので、思いやりのある行動が大切です。

香典返しは、葬儀や法要を通していただいた心遣いに対し、感謝を込めて返礼する大切な慣習です。仏式においては四十九日法要後に贈るのが一般的で、神式やキリスト教式でも宗教に応じた節目に合わせて返礼を行います。

近年では、参列者の都合や遺族の負担軽減の観点から、葬儀の当日に返礼する「当日返し」の形式も一般的になりつつあります。もし葬儀後に遅れて香典をいただいた場合や、香典返しの準備が遅れてしまった場合も、できるだけ早く用意して感謝の気持ちを伝えることが大切です。

香典を選ぶときは、ぜひ下記サイトも参考にしてください。